撮影の意味

この写真は、去年の冬に駅前で撮ったものです。

ちょうどイベントが行われていて、ステージの上ではダンサーが踊っていました。 ダンスの心得があるのか、観客であるはずの女の子も、一緒になって踊っていました。 その踊りが上手だったので、こっそりと何枚か撮らせてもらいました。

前回のお婆さんは撮らなかったのに、どうしてこの女の子は撮ったのでしょう。 それは、駅前という人の多く集まる場所だということと、この女の子が人目につく行動をしていたからです。 女の子は、見てもらうために踊ったか、少なくとも見られることを気にしてはいなかったはずです。 それで、こちらも気兼ねなく撮れたというわけです。

それでは、ステージで踊るダンサーを見て感心しているおじさんの場合はどうでしょうか。 たくさんの観客がいるわけですから、顔を見られても構わないはずです。 でも、そのおじさんは、ダンサーに感心しているからそういう顔をしただけで、見られるためにそういう顔をしたわけではありません。 むしろ、ダンサーに集中して無防備になっている表情を見られてしまうのは、恥ずかしいことのはずです。

実は、そのおじさんの写真も撮ったんです。 すると、おじさんは撮られたことに気づき、戸惑った顔でこちらをチラリと見ました。 慌てて軽く礼をしましたが、おじさんは戸惑った顔のまま、おばさんをつれて去っていきました。 私は、写真を撮ることで、おじさんのダンス鑑賞を邪魔してしまったのです。 おじさんには、とても申し訳ないことをしてしまいました。

昔住んでいた場所を久々に訪れた時、こんな体験をしました。 懐かしさに胸をときめかせながらカメラを持って歩いていると、玄関を掃除するおばさん達の鋭い目線を感じました。 そのうち、一人のおばさんに話しかけられたのですが、「最近この辺りで放火が相次いでて、不審者に敏感になっているから、注意した方がいいですよ」ということでした。 住宅地をカメラを持って一人で歩いているのは、充分に不審者の資格あり、というわけです。

実際、公園から延びる道の先にある夕日を撮っていたら、たまたま前を通り過ぎた親子から警戒の眼差しを浴びたこともあります。 不審者かどうかはともかく、撮影という行為が好ましくない場合があることは確かなようです。 ここで、改めて前回のお婆さんについて考えると、自宅の庭先で、孫と共にバスを見送っている姿というのは、明らかにプライベートな世界なんですね。 それを、たまたま通りがかった見ず知らずの人間が、許可もなく写真を撮るということは、もう完全に失礼な行為なわけです。

もちろん、事後承諾でうまくいく場合もあるわけですが、私はそこまでして写真を撮ろうとは思わないのです。

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笑顔の意味

先日、カメラを持って散歩をしていた時の話です。

ぶらぶらと歩いていると、民家の庭先にお婆さんが立っていました。 しばらくすると、向こうから幼稚園の送迎バスがやってきて、お孫さんが降りてきました。 お婆さんは満面の笑みで、お孫さんはなんだか良くわからない顔をしながら、バスに手を振って見送っていました。 私は、いい光景だな、とは思いましたが、カメラを向けようとは思いませんでした。

その場を通り過ぎながら、どうして絶好のシャッターチャンスを見送ったのか、疑問に思いました。 確かに、撮っていれば素晴らしい写真になっていたでしょう。 でも、それは「やってはいけないことだ」と、頭のどこかが警告を発しているのです。 撮った後に、果たしてお婆さんに笑顔が残っているのか、と。

例えば、恋人とのデートを楽しんでいる時、それはもう最高の笑顔をしていることでしょう。 でも、デートの最中に知らない人がカメラを向けてきたら、私ならきっと嫌な顔をするでしょう。 その笑顔が撮影者とのやり取りの中で生まれたものなら、自信を持って撮ることができますが、そうでないところで生まれた笑顔なら、そのままそっとしてあげたいと思うのです。

そんなことを考えながら歩いていると、壁から突き出たパイプを見つけました。 壁のそそり立ち具合や、いかにも後から付け足しましたというパイプの不器用さ加減、壁に染み付いたシミに、側溝の網の絶妙な位置。 それが何を意味するかはわかりませんが、私はすっかり嬉しくなって、夢中でシャッターを切りました。 満面の笑みを浮かべている私を見て、首を傾げる人がいるかもしれませんが。

そして、はっと気がつきました。 笑顔は、撮るものじゃなくて、するものなんだ、と。 もちろん、人の笑顔を撮ることで笑顔になる人もいることでしょう。 私は、自分が笑顔になるような写真を撮りたいと思いました。 そして、笑顔のお裾分けができれば、さらに笑顔になることでしょう。

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